マイク・リー新作が金貝殻賞 脚本賞と主演賞も、授賞の対象を読み解く
第74回サンセバスチャン映画祭の最高賞はマイク・リー監督作『Tender Loving Care』に決まった。同作は脚本賞と主演演技賞にも名前が載るが、三つの賞は映画、脚本家、俳優という異なる対象を表彰する。公式結果と規則、作品資料から確認できる範囲を整理した。

第74回サンセバスチャン映画祭は2026年9月26日、最高賞の金貝殻賞をマイク・リー監督の英国映画『Tender Loving Care』に授与した。公式結果には同じ作品がさらに脚本賞と主演演技賞にも登場する。ただし「三冠」という一語だけでは、誰のどの仕事が表彰されたかが見えにくい。日本語で海外映画祭の結果を読む読者に向け、映画祭の受賞表、公式部門の規則、作品カタログを照合した。
金貝殻賞の正式な対象は「最優秀作品」で、2026年の公式部門規則はこの賞を製作者に対するものと定める。受賞一覧には作品名とリーの名が並ぶが、これをリー個人への監督賞と言い換えるのは正確ではない。監督賞の銀貝殻賞は別にあり、今年は『Garrat du váimmu / Brace Your Heart』のアマンダ・ケルネル監督が選ばれた。作品賞と監督賞を分けるだけでも、授賞結果の意味が変わる。
リー自身が受けた公式部門の賞は、同作の脚本に対する審査員賞である。作品カタログでも監督と脚本の両欄にリーの名が載る。一方、主演演技の銀貝殻賞に選ばれたのは出演者ケイト・オフリンだ。この賞は『Growth of the Soil』のアスタ・カンマ・アウグストとの同時受賞である。脚本を担った人と演じた人を、作品の受賞歴にまとめて吸収しないことが必要だ。
映画祭の規則では金貝殻賞の同時受賞を認めないが、公式賞の一部には同時受賞の余地がある。今回の主演演技賞に記された「ex aequo」は、その制度上の違いが実際の結果に表れた例だ。受賞数を数える際にも、ひとつの作品が複数の賞に現れることと、ひとつの賞を複数の受賞者が分け合うことを混同できない。審査員の個別の投票や三部門で評価された具体的な場面は、公開された結果表だけからは分からない。
公式審査員の一覧には委員長アイラ・サックスのほか、日本の映画監督・作家、川村元気が含まれる。ただし日本人審査員が参加したという事実から、特定作品への投票や賛否を推定することはできない。規則は審議を非公開とし、決定は単純多数で行うと説明する。審査体制を知ることと、公開されていない選考過程を知ったかのように語ることは別である。
映画祭の作品目録では『Tender Loving Care』は英国製作の107分の長編で、原語は英語。製作はThin Man Films、国際販売はCornerstone Films Limitedと記される。撮影ルーシー・ブリストウ、編集タニア・レディン、音楽ゲイリー・ヤーション、音響リー・ヘリックというクレジットも載る。出演者にはマリオン・ベイリー、ポール・ジェソン、オフリン、アリス・ベイリー・ジョンソンが挙がる。これらは作品を特定するための公式資料であり、筆者が本編を見て演出や演技を批評したものではない。
作品紹介は、リーが現代世界を見つめる新作として簡潔に説明するにとどまる。その紹介や受賞名だけから、具体的な筋、登場人物の関係、脚本の特徴を作り足すべきではない。公式受賞発表には別の賞であるSIGNIS賞にも同作の名があるが、同賞は公式部門の金貝殻賞、脚本賞、主演演技賞とは区分して掲載されている。異なる選考制度を横並びの同じ票として扱うと、結果の読み方を誤る。
日本国内での配給会社、劇場公開日、字幕付き上映、配信開始日については、今回参照した公式受賞結果と作品カタログからは確認できない。国際販売会社の記載は日本公開の決定を意味しない。今後の鑑賞機会は配給元や上映館の発表を別途確認する必要がある。掲載するリーの写真は2024年トロント国際映画祭の資料写真であり、2026年サンセバスチャン映画祭の授賞式や本作の撮影現場を写したものではない。
프리즘코리아 편집국 > 小川美緒



